4月特集 春競馬、クライマックス(7)
牡馬クラシック第1弾の皐月賞(中山・芝2000m)が、4月19日に開催される。今年は牝馬戦線同様、牡馬戦線も実力馬がズラリ。皐月賞に出走するメンバーのうち、半数以上が重賞勝ち馬で、ハイレベルな戦いが期待される。さらに、皐月賞には出走しなくとも、日本ダービー(5月31日/東京・芝2400m)での飛躍を目指して、虎視眈々と地力を磨いている血統馬や評判馬もいる。皐月賞、ダービーとも、まさに熾烈な争いになることは必至。どの馬が頂点に立つのか、まったく予想ができない。そこで、3歳牝馬と同じく(4月7日配信。「安藤勝己が選定『2015年3歳牝馬クラシック番付』」)、競走馬を見る目が確かな安藤勝己氏に3歳牡馬の実力診断を依頼。2015年牡馬クラシックにおける「番付」を作成してもらった。
【競馬】ダービー路線に突如現れた「大物」グレーターロンドン
■横綱:サトノクラウン(牡3歳)
(父マルジュ/戦績:3戦3勝)
馬体は、決して見映えがいいわけではない。ゆえに、実は弥生賞の前までは、それほど強い馬だとは思っていなかった。2歳秋に東京スポーツ杯2歳S(2014年11月24日/東京・芝1800m)を勝ったときも、内からうまく伸びたな、という印象しかなかった。
それが、重賞勝ち馬が顔をそろえた弥生賞で完勝。まくり気味に上がっていって、直線で早めに先頭に立つと、そのまま突き抜けていった。あの強さには、本当にびっくりしたよ。「この馬、こんなに強かったのか」って思ってね(笑)。
折り合いをつけるのに心配がいらない馬だから、道中はずっと余裕を持って走っている。その余裕が、最後の、あのスパーンという切れ味につながっているんだと思う。弥生賞で見せた競馬っぷりからは、距離に問題があるとも思えなかった。皐月賞とダービー、二冠の可能性も十分にあるね。
■大関:ドゥラメンテ(牡3歳)
(父キングカメハメハ/戦績:4戦2勝、2着2回)
共同通信杯では、リアルスティールに敗れたけれども、能力はこっちのほうが上、という感じがした。道中、かなりチグハグな競馬をしていたからね。最初、馬が行きたがって前に出たけど、それを抑えたことでズルズルと後退。やや位置取りを悪くしてしまった。それでも、直線に入って追い出すと、一瞬にして先頭に立った。あの脚は迫力があったね。最後は差されてしまったけど、あれだけの脚が使えるんだから「やっぱり、この馬は強い」と思ったよ。
もともと、この世代では一番力があると思っていた。実績では「横綱」サトノクラウンに劣るけれども、能力は互角か、それ以上。共同通信杯における反応の良さを考えれば、(皐月賞の舞台となる)中山コースでも心配はない。逆に、前走(共同通信杯)の失敗が教訓として生かされる分、楽しみのほうが大きい。この馬も、二冠を狙えるだけの「器」があるよ。
■関脇:リアルスティール(牡3歳)
(父ディープインパクト/戦績:3戦2勝、2着1回)
キャリア2戦目で重賞の共同通信杯を勝つんだから、すごい素質があるってことだよね。前走のスプリングSにしても、負けたとはいえ、強烈な脚を使ってしっかりとクビ差の2着まで追い込んだ。やはり、世代トップクラスの能力を持っていることは間違いない。
ただ、気がかりなこともある。もともと気性面に不安がある馬は、使い込むことによって、その課題がだんだん露呈することがある。この馬も、スプリングSでそんな素振りを見せ始めた。道中、やや行きたがって、鞍上が位置取りを考えるより何より、馬を我慢させるのに精一杯という感じだったからね。ひとつ上の兄ラングレー(牡4歳)も、3歳の春先はそれで苦しんで、成績が頭打ちになった。能力は上位だが、クラシック制覇には、自分との戦いに勝てるかどうかがポイントになる。
■小結:キタサンブラック(牡3歳)
(父ブラックタイド/戦績:3戦3勝)
この馬の最大の特徴は、フットワークがすごくゆったりしていること。母の父がサクラバクシンオーと、距離に限界がありそうに見えながら、2000mの距離もこなせてしまうのは、そのおかげだと思う。
前走のスプリングSでも、ゆったりしている分、スタートしてからの一完歩、二完歩目は決して速くなかった。でも、そこで鞍上がググッと押し出すと、スーッとスピードに乗って前に出て行ける。並の馬だと、それでかかってガーッと行ってしまうんだけど、この馬は折り合える。そこが、この馬の非凡なところであり、俺が「距離はこなせる」と思う理由だ。
精神面もしっかりしているし、スプリングSの勝ち方を見ると、思った以上に力をつけている感もある。特に皐月賞では、怖い一頭になるね。
■前頭一枚目:ブライトエンブレム(牡3歳)
(父ネオユニヴァース/戦績:4戦2勝、2着1回、着外1回)
2戦目の札幌2歳S(2014年9月6日/札幌・芝1800m)が強い競馬だった。札幌の芝は他の会場と比べると力がいる馬場だからね、4角で後方にいたら、普通の馬ではとても届かない。それがこの馬は、後方の、それも大外から仕掛けていって、前の馬群をあっさりと差し切っちゃった。こりゃ、強い馬だな、と思ったよ。
休み明けのGI朝日杯FSでは7着に沈んだけれども、前走の弥生賞では2着と巻き返した。母がGI馬のブラックエンブレムと血統的な裏づけもあるし、もともとそれぐらいの能力は秘めている馬。皐月賞、ダービーでも、チャンスはあると思う。道中、じっと脚をためて、最後の直線勝負にかける――それで流れさえ向いていれば、まとめて差し切ってもおかしくないよ。
■前頭二枚目:ダノンプラチナ(牡3歳)
(父ディープインパクト/戦績:5戦3勝、2着1回、3着1回)
前走のスプリングSは3着にとどまった。道中、多少力んで走っているように見えたから、朝日杯FS以来という、休み明けの影響が少なからずあったんだろうね。まあ、そもそもスプリングSは、あくまでも皐月賞の“試走”というイメージで、どうしても勝ちたいという感じではなかった。それでいて大崩れしないんだから、“2歳チャンピオン”たる底力が備わっている、ということだろうね。
朝日杯FSでは、最後にいい切れ味を見せて快勝した。あの脚が再現できれば、本番でも面白い。頭の高い走りっぷりを見ると、距離はあまり長くないほうがよさそうだから、陣営にとっての勝負は皐月賞だろうね。
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ここに挙げた馬以外にも、重賞勝ちのある、底力のある有力馬はたくさんいる。前哨戦で敗れているとはいえ、本番で巻き返す可能性は十分にある。また、ダービーでは、他の路線から台頭してくる馬が結構いそう。混戦の中、意外な馬が頂点に立っても不思議ではない。その分、馬券的な妙味は増すかもしれないね。
【プロフィール】
●安藤勝己(あんどう・かつみ)
1960年3月28日生まれ。愛知県出身。2003年、地方競馬・笠松競馬場から中央競馬(JRA)に移籍。鮮やかな手綱さばきでファンを魅了し、「アンカツ」の愛称で親しまれた。キングカメハメハをはじめ、ダイワメジャー、ダイワスカーレット、ブエナビスタなど、多くの名馬にも騎乗。数々のビッグタイトルを手にした。2013年1月31日、現役を引退。騎手生活通算4464勝、うちJRA通算1111勝(GI=22勝)。現在は競馬評論家として奔走している。
新山藍朗●構成 text by Niiyama Airo
アンカツセレクション|牡馬クラシック評価
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